なぜ越境ECは日本企業に必要なのか(執筆:JACCAスーパーアドバイザー 本谷 知彦)

皆さま初めまして、本谷 知彦と申します。今年10月よりJACCAスーパーアドバイザーの任を受けまして、今後コラムを定期的に執筆していこうと思います。まずは自己紹介からです。

株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役
本谷 知彦(もとたに ともひこ)

1990年大和総研入社。ITの主任研究員等を経て2013年より国内外の産業調査・コンサル業務に従事。2014年から7年連続で経済産業省電子商取引市場調査を担当。同社退職後、2022年にEC特化のシンクタンク(株)デジタルコマース総合研究所を設立。

本日は、第一回目として、
Vol.1:なぜ越境ECは日本企業に必要なのか
~成長する諸外国の小売市場獲得を目指して~
というタイトルで書いていきます。

➡ Table of contents

1. 驚異的に拡大する世界の越境EC市場規模
2. 低迷を続ける日本経済
3. 個人消費と小売市場規模も同様に横ばい
4. コロナを経て拡大が加速する世界の小売市場
5. 日本企業に迫られている選択肢

1. 驚異的に拡大する世界の越境EC市場規模

本レポートでは、なぜ越境ECは日本企業に必要なのかを説明すべく、低迷する日本経済の状況、およびコロナを経て着実に拡大する世界の小売市場等について述べていきます。それに際し、まずは世界の越境EC市場規模の拡大予測について触れさせていただきます。

次のグラフは2030年の世界の越境EC市場規模の予測に関する棒グラフです。2021年は785十億USドル(11兆7,850億円 150円/USドルで計算 以降同じ)であったところ、2030年には7,938十億USドル(119兆700億円)にまで拡大するとの予測になっています。この間の年平均成長率は26.19%、つまり驚異的なペースで拡大するとの予測です。この予測知通りに市場規模が拡大するかどうかはわかりません。ただ少なくとも当予測を行った海外の調査会社Fact & Factors社は何らかの根拠をもって推計したものと考えられますので、少なからず市場規模は拡大基調であるということは言えるでしょう。

■世界の越境EC市場規模の拡大予測(単位:十億USドル) ※調査時点 2022年

出所:Facts & Factors社発表(Statista経由で取得)のデータを基に作成

2. 低迷を続ける日本経済

円安、訪日外国人の増加といった、越境ECにとって追い風の状況となっていることは既知の通りです。一方で越境ECが日本企業にとって重要である大きな理由に、日本経済の低迷が挙げられるのではなでしょうか。次のグラフは2002年の実質GDPを“1”とした場合、20年後の2022年の実質GDPの上昇率を示した折れ線グラフです。中国は12.35倍、ベトナムは9.12倍と高い成長率です。両国の経済発展の目覚ましさを数値で理解することができます。

ここで着目したいのは、米国、ドイツ、日本といった先進国の数値です。米国は2.33倍、ドイツは1.96倍と先進国であるにも関わらず2倍前後の成長率となっています。一方日本はわずか1.01倍に過ぎません。外国為替の変動が影響している点は否めませんが、それを差し引いでも日本の経済が諸外国と比較し相対的に低迷していることがよく理解できます。日本経済が長年低迷している一方で諸外国の経済は成長しています。このことが日本企業にとって越境ECの必要性のベースとなっていると言えます。

■2002年の実質GDPを“1”とした場合の2022年の実質GDPの上昇率

出所:Statistaのデータを基に作成

3. 個人消費と小売市場規模も同様に横ばい

GDPとはその国の経済力を表しています。そしてどの国も個人消費はGDPの5~6割に相当すると言われています。すなわち、個人消費が拡大すればGDPに大きなプラスの影響を与えることになります。上述の通り日本は長年GDPが停滞していますので、必然的に個人消費も停滞しているということです。では具体的にその数値を見てみましょう。

次の棒グラフの通り、日本の個人消費は1994年から300億円弱で長年推移していることがわかるでしょう。日本の個人消費は約30年間ほとんど成長していないのです。同様に小売市場規模も150兆円前後で長年推移していることもわかっています。個人消費も小売市場規模も物価高によって若干増加することでしょう。しかしそれは円安や政情不安による原価高騰が原因ですので、真の意味での経済成長ではありません。この状況が急に好転することは考えづらく、引き続き国内の個人消費と小売市場規模は低迷を続けることが予想されます。

■個人消費(家計最終消費支出)の推移(単位:兆円)

出所:国民経済計算(GDP統計)(内閣府経済社会総合研究所)発表データを基に作成

■小売市場規模の推移(単位:兆円)

出所:商業動態統計調査(経済産業省)発表データを基に作成

4. コロナを経て拡大が加速する世界の小売市場
諸外国も同じ状況ではないのかという声も聞こえてきそうです。しかしながら世界の小売市場規模は日本と同じではありません。次のグラフによれば、2026年の世界の小売市場規模は32.76兆USドル(4,914兆円)にまで拡大すると予測されています。2021年の小売市場規模が26.37兆USドル(3,956兆円)ですので、2026年の5年間で世界の小売市場規模は年平均4.44%で成長するとの計算になります。

2020年は新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大によって、例外なく世界の小売市場は大打撃を受けたことは記憶に新しいでしょう。しかしながらコロナの収束を経て世界の小売市場規模は着実に拡大すると予測されています。日本の小売市場が同様に年平均4.44%で拡大するとの予測は現実的ではありません。このように世界と日本では大きな差が生じていることを十分認識しておく必要があります。

■世界の小売市場規模の拡大予測(単位:兆USドル)

出所:eMarketer(Statista経由で取得)のデータを基に作成

5. 日本企業に迫られている選択肢
本レポートでは、世界の越境EC市場規模が大きく拡大するのと予測、および日本経済の長年の低迷、そして諸外国の小売市場の拡大に関する予測について述べてきました。要するに、内需にしがみついたままであればそれはパイの奪い合いにしのぎを削ることを意味し、一方で越境ECによって販路拡大にチャレンジすれば、諸外国の旺盛な消費意欲を取り込める可能性が広がっていることを意味します。つまり「日本企業にはそのどちらを選択するのか、迫られているということです。

国内でのパイの取り合いにしのぎを削ると書きましたが、国内で十分シェアを獲得しており今後も競合が登場する見通しが無い場合には、あえて海外へ販路拡大を試みる必要はないかもしれません。このように個々の企業単位で捉えた場合、全ての企業が海外を目指す必要はないでしょう。しかしながら、そのように国内ビジネスだけで安泰な企業はごく一部と思われます。加えてエネルギー問題、外国為替の乱高下、世界的な政情不安といった不確定要素が多く存在しており、今後の見通しを楽観視することは危険かもしれません。したがって、消費市場を国内レベルから世界レベルに拡大し、ビジネスの間口を広く構えることは、全ての企業にとって重要ではないかと考えられます。

■日本企業に迫られている選択肢

以上となります。

日本越境EC協会では情報発信の一環としてJACCA Reportと題したレポートコンテンツをご提供してまいります。皆様の越境ECビジネスの検討・推進の一助となりますことを、関係者一同心より願っております。

【著者略歴】
本谷 知彦(もとたに ともひこ)
株式会社デジタルコマース総合研究所 代表取締役

1990年大和総研入社。ITの主任研究員等を経て2013年より国内外の産業調査・コンサル業務に従事。2014年から7年連続で経済産業省電子商取引市場調査を担当。同社退職後、2022年にEC特化のシンクタンク(株)デジタルコマース総合研究所を設立。2023年10月JACCAスーパーアドバイザー就任。

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